猪苗代湖モビレージにおける家族キャンプの一夜

家族で、ポーカーに興じるというのは、いったい何年ぶりなのか。
5年か、10年か。
いや、それ以上経つのか。
第一、すでに30歳を超えた息子がキャンプに着いて来るということ自体が、いったい何年ぶりのことやら。
5年か、10年か。
いや、それ以上経つのか。
第一、すでに30歳を超えた息子がキャンプに着いて来るということ自体が、いったい何年ぶりのことやら。
20を過ぎた頃から家を出て、遠いところで一人暮らしを始めた息子。
家に戻ってくるのは、もう年に1~2度しかない。
その息子が実家に用があるといって帰省し、珍しく家に連泊した。
しばらくは、日程的に余裕があるという。
そこで、
「友達同士のつきあいも大事だろうけれど、たまには家族でキャンプに行かないか?」
と誘ってみた。
「いいよ」
と素直にOKを出した長男。
家に戻ってくるのは、もう年に1~2度しかない。
その息子が実家に用があるといって帰省し、珍しく家に連泊した。
しばらくは、日程的に余裕があるという。
そこで、
「友達同士のつきあいも大事だろうけれど、たまには家族でキャンプに行かないか?」
と誘ってみた。
「いいよ」
と素直にOKを出した長男。
「いやだよ。夫婦で行ってきなよ」
といういつものセリフを想像していた私は、予想外の反応に、かえってびっくりした。
といういつものセリフを想像していた私は、予想外の反応に、かえってびっくりした。
中学に入って以降は、親と一緒にキャンプに行くなどという “恥ずかしいこと” を嫌っていた息子だったが、さすがに30歳を超えると、老いた両親の荷物運びの役にでも立ってやるか … というような大人の気遣いでも生まれたのかもしれない。

行き先は、福島県の「猪苗代湖モビレージ」と決めた。
ここはロケーションが抜群である。
ここはロケーションが抜群である。
湖畔ぎりぎりのところに車を停められるというキャンプ場はなかなかないからだ。
歴史を誇る老舗のキャンプ場だから、そういう特別なサイト運営ができるのだろうけれど、たぶん現在湖畔に面した場所に駐車スペースとテントサイトを新たに設けられるようなキャンプ場はないはずだ。
実は、ここは息子が小学5年生のときに、一度訪れたことがある。
そのときは、陽射しの強い夏の盛りの時期で、湖畔のサイトも林間のサイトも満杯。湖には、無数のボートやカヌーが浮かんでいた。
しかし、その日はカミさんの機嫌が悪かった。
体調を崩していたうえに、湖畔から吹く強風に煽られて、神経がいら立っていたのか、息子に当たった。
息子は、楽しいはずのキャンプ中に母親に泣かされたものだから、このキャンプ場には、あまり楽しい思い出がないかもしれなかった。
再びここを訪れよう思ったのは、そのリベンジもあった。
秋が深まりを見せ始めた週末。
すでに東北の風は冷たかった。
とりあえず東北自動車道に乗り、安積PA辺りで休憩を取り、そこから携帯電話を使って空き具合を尋ねた。
休日前の午後であるにもかかわらず、その日はサイトが空いているという。
たどりつくと、森閑としていた。
「バンガローに泊まっている方が1組いらっしゃるだけです」
と、管理人はいうが、その客の姿も見えない。
湖畔を渡る風には、冬の到来を思わせる冷たさがまじり、木立はしんと静まり返っている。
そのときは、陽射しの強い夏の盛りの時期で、湖畔のサイトも林間のサイトも満杯。湖には、無数のボートやカヌーが浮かんでいた。
しかし、その日はカミさんの機嫌が悪かった。
体調を崩していたうえに、湖畔から吹く強風に煽られて、神経がいら立っていたのか、息子に当たった。
息子は、楽しいはずのキャンプ中に母親に泣かされたものだから、このキャンプ場には、あまり楽しい思い出がないかもしれなかった。
再びここを訪れよう思ったのは、そのリベンジもあった。
秋が深まりを見せ始めた週末。
すでに東北の風は冷たかった。
とりあえず東北自動車道に乗り、安積PA辺りで休憩を取り、そこから携帯電話を使って空き具合を尋ねた。
休日前の午後であるにもかかわらず、その日はサイトが空いているという。
たどりつくと、森閑としていた。
「バンガローに泊まっている方が1組いらっしゃるだけです」
と、管理人はいうが、その客の姿も見えない。
湖畔を渡る風には、冬の到来を思わせる冷たさがまじり、木立はしんと静まり返っている。

キャンプする客が珍しく少ないという管理人の話を聞き、少しでもキャンプ場にお金を落とそうと思い、途中のスーパーでビールを買うのを控え、売店で缶ビールを多量に買った。
それを開けながら、木のベンチに座って、湖を眺める。
波が足元まで寄せる。
忍び寄る夕暮れの気配とともに、木々の葉影が次第に黒ずんでいく。

「明日は雨か … 」
いくぶん湿気を含んだ風が、鼻腔をくすぐる。
湖面の彼方の広がる山影にも、うっすらとかすみがかかる。
いくぶん湿気を含んだ風が、鼻腔をくすぐる。
湖面の彼方の広がる山影にも、うっすらとかすみがかかる。

オーニングを出すのも面倒くさいので、スーパーで買った刺身をサカナに、車内にこもって宴会。
酒を飲みながら、父・母・30歳の息子の3人で、いつのまにかポーカーが始まる。
“賭け金” は、将棋のコマ。
BGMは小林旭と北島三郎。
ワンペア同士のたわいもない手で勝負して、みな一喜一憂。
“ポーカーフェイス” を身につけた息子の慣れた手管に、みるみる “賭け金” が少なくなって焦るカミさん。
息子は、「タバコタイム」と称して、ときどき車外に出て、タバコをくわえる。
その姿を追うように、自分も灰皿片手に外に出て、一服。
いつのまにか、外は暗闇。
波の音だけが、足元を浸していく。

「大草原の小さな家だね」
クルマの方を振り向いた息子がつぶやく。
そういえば、昔そんなアメリカ製のホームドラマがあったっけ … 。
「家の明かりって、いいもんだね」
そういう息子に、「早く、嫁さんでも探せよ」 …、と言いかけて、口をつぐむ。
「中で飲み直すよ」
そう言いながら、クルマに戻って行く息子の背中を、少し酔った足で追う。
「 … いつの間にか、俺より酒が強くなりやがって … 」
クルマの中では、演歌の嫌いなはずのカミさんが、小林旭の「北帰行」を口ずさんでいる。