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コラム

怖いお兄さんに酒をおごられる


 キャンピングカーで旅行していると、いろいろな人との出会いがある。
 だから、キャンピングカー旅行の楽しさのひとつに「友達ができること」を挙げる人は多い。
 特に、犬連れオーナーたちは、まず、犬が会話の糸口になって、次にお互いのキャンピングカーの話に移り、やがて飲み仲間に …。
 なんてこともよくあるようだ。
  
 昔、日本オートキャンプ協会が発行する『全国キャンプ場ガイド』の編集に携わっていた頃、キャンピングカーで取材に行くたびに、地方で新しい“知り合い”をつくっていた。
 その中には、その後の交流が生まれた人もいたが、たいていは“一期一会”。
 一晩酒を酌み交わし、それで終わり … という感じの人が大半なんだけど、くっきりと記憶に残っている人もいる。
  
 近畿圏の山奥のキャンプ場を取材した後、里まで下りてきたときのことだった。
 かすかに観光地の匂いを残したさびれた町で、人気のない駅前には観光バスが何台も泊まれそうな広い駐車場があった。
 朝まで止めてもたいした料金ではない。
 そこにクルマを収めて、居酒屋探しを始めた。
  
 もともと見知らぬ町の、見知らぬ人々のいる(ちょっとひなびた)居酒屋に入るのが好きなたちだから、地元の人々が集まって地元の方言丸出しで陽気に騒いでいるような中に入るとうれしくなる。
  
 そういう居酒屋に入り、まずは簡単なツマミを頼んで、ひっそりと独り酒を飲む。
 しかし、耳だけは全神経を集中して隣の男たちの会話などをチェックしている。
 その中で話題に入っていけそうなテーマが出たときに、突如図々しく会話に参加する。
 このへんは要領だが、見知らぬ人たちの話の中に入っていくには、ちょっとだけコツがある。
  
 たとえば、こんな感じだ。
  
 「実は、出版社から派遣されてきた旅行雑誌のカメラマンなんですが、今の時期このあたりで一番美しい風景はどこですか?」
  
 これでよろしい。
  
 私の場合、まったくのウソではない。
 取材対象はキャンプ場であったが、周辺情報もチェックしておけば記事に厚みが増すし、美しい風景を写真に撮っておけばイメージカットとして使える。
  
 とにかく、いちおう“プロのカメラマン”だと感じさせるのがミソ。
 こちらがただの旅行者ではないと分かると、向こうの好奇心も一段と強まるようで、話の盛り上がり方が早くなる。
  
 「××高原はどうだろう?」
 と、その仲間の中の一人が言い出すと、
 「いや、◎◎川の川原から、▲▲ 山を見た景色がいい」
 「いや、■■ まで行って、○○ を撮ったらどうだ?」
 「いや、◇◇に出れば、ついでに◎◎も見られる」
  
 … こんな調子で、観光本などでは紹介されていないその土地ならではの隠れた名所、グルメ、遊びの情報が一気に手に入るという寸法だ。
  
 まぁ見知らぬ土地で、見知らぬ居酒屋に入るのだから、多少のリスクは覚悟しなければならない。
 たまたま隣りにいた男性が、角刈り頭で、目つきが鋭く、スゴむと怖そうに思える人だったりすることもある。
  


 
 この日、隣りにいたのは、そういうお兄さんだった。
 「あんた、こんな何もない町に何を撮影にきたんね?」
  
 隣のカウンター席で、無口に酒を飲んでいたお兄さんが、突然ヘビが鎌首をもたげるように、ヌッと私の方に首を回した。
  
 もともと眉毛が薄いのか、それともソリを入れているのか。
 額まわりがテカテカと明るく、その分、暗い光を宿した眼がやたら怖い。
 ( 『仁義なき戦い』 シリーズで、梅宮辰夫が演じていた明石組の岩井がこんな風貌だった)
  
 で、このお兄さん、柔和なしゃべり方の奥にドスの利いた響きがあり、「答え方いかんによっては許さんぞ」的な迫力もある。
  
 しかし、こっちも適当に酔っぱらっているから、そのへんは調子よく合わせてしまう。
  
 「ここはなかなか風光明媚な町で、旅行雑誌では、最近えらく評判がいいんです。特にこの奥にある××キャンプ場は、県外からくるお客がどんどん増えて、マスコミの露出度も高まってきましてね…」
 とか、ウソも少し絡めたりしてヨイショ。
  
 するとそのお兄さん、目の奥に疑り深そうな光を宿しながらも、口元をちょっとゆるめて、
 「ママさんこっちのお客さんにお銚子一本出してやって…」
 とくるではないか。
  
 ママさんがお銚子を差し出す手が、少し緊張している感じがするので、まぁ、この兄さん“ただの人”ではないだろうな…とは思ったが、話すことは少年時代の草野球の話だったり、地元の農家の特産品の話だったりと、いたってフツー。
  
 もともとローカルな場所でローカルな話題を聞くのが好きだから、お銚子を重ねるごとに会話も盛り上がる。
  
 宴たけなわとなった頃、その怖いお兄さんが突然言い出した。
  
 「俺はこれからチョイと用事だ。何もない町だが、この先に1軒だけストリップ小屋がある。○○という俺の名を出せば無料で入れる。まぁ、20~30分楽しんでいきなよ」
  
 男は、そう言い残して立ち去った。
  
 ストリップ…。
 う~む、趣味ではないが、まぁ嫌いな方でもない。
  
 で、くだんのストリップ小屋に行き、半信半疑でその怖いお兄さんの名前を出してみた。
 すると支配人、その名を聞いただけで、飛び上がるように恐れおののいて、とにかく私を一番前の“特等席”に案内してくれるではないか。
  
 ショーを繰り広げる踊り子さんも、舞台から私を見下ろす表情がちょっと緊張気味。
 どうやら、この日の私は、特別のお客さんであるらしい。
  
 出し物が終わると、支配人が私の隣りにやってきて、顔色をうかがうようにおそるおそる話しかけてきた。
  
 「今宵は十分にお楽しみいただけたでしょうか?」
  まるでVIP待遇である。
  
 「ええ十分に …。○○さんによろしくお伝えください」
  
 すると支配人。
 もじもじと手を重ね合わせながら、言いにくそうに間をおいて、やがて次のように告げた。
  
 「実は、○○さんが、直接お客様にご挨拶を差し上げたいから、ここを出たら来るように … と」
  
 「ええ? やっぱり “ただほど怖いものはない” だったか …」
  
 マジでやっかいなことになったなあ … と思った。
 身の危険は感じなかったけれど、これ以上の過剰な接待を受けたりしたら、かえってメンドーなことになりそうという気がした。
  
 しかし、逃げようにも支配人にしっかり見張られているし、こうなりゃ挨拶に行かねばならない。
  
 で、支配人に教えられた場所にたどり着くと、先ほどの○○氏。
 なんと向こうからこちらを見つけて、笑顔で敬礼している。
  
 「本官の案内は、お気にめしましたでしょうか? 先ほどは勤務時間前でありましたため、中座してしまい、誠に申し訳ありませんでした」
  


 言葉づかいもガラリと違う。
 目つきは相変わらず鋭いのだが、角刈り頭の上には警察官の帽子が乗っているではないか。
 町で唯一の交番だという。
  
 「確かキャンピングカーの旅とおっしゃいましたね。今日は駐車場でお泊まりですか? 気をつけて旅を続けてください。この町のために、いい写真を撮って、いい記事を書いてください」
  
 ふ~む…。
 そういうことであったか。
 自分の正体を明かさず、後で驚かそうとは…。
 このお巡りさん、けっこうお茶目な人だったのかもしれない。
  
 ま、おかげで、この居酒屋での顛末は、お巡りさんの最後に見せた人なつっこい笑顔とセットになって、いまだに記憶に残っている。
 肝心のキャンプ場の方は、どこを取材したのか忘れてしまったけど。

 

 

町田厚成

キャンピングカーのガイドブック、キャンプ場ガイドブックなどの編集を通じて、キャンピングカーやキャンプ旅行に関する文章を20年くらい書き続けています。愛車は5mサイズのキャブコン。カミさんが機嫌が良いときは犬と一緒に旅行にお供してくれますが、仕事を兼ねた一人旅が多い昨今です。

http://campingcar2.shumilog.com/

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