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コラム

アメリカの原風景

 
 キャンピングカーの旅のだいご味は、けっきょく自分の想像を超える風景と出遭うことだと思っている。
 今の時代、観光情報としての「映像」は、どんなところにもあふれている。
 テレビ。
 雑誌。
 街の観光ポスター。
 そういった既成のメディアだけでなく、SNSを通じて、誰かが旅に出たときの映像がインスタグラムという私的画像配信システムによって、秒単位で流出してくる。
 だから私たちは、旅に出なくても、すでに世界中の観光映像を取得できるような気分のなかで暮らしている。
 
 しかし、「旅のだいご味」というのは、そういうものとは違うところからやってくる。
 「だいご味」とは、すなわち自分があらかじめ持っていた情報に裏切られる体験の別称だ。
 つまり、それは自分の想像力が尽きる彼方(かなた)からやってくる。
 
 たった1回だけのチャンスだったが、2008年にレンタルモーターホームを借りてアメリカの中西部を回った旅が、私にとってそのような体験だった。  
 それは、「風景の原点」ともいえるものに遭遇した旅だった。
 アメリカの原風景ともいえるモニュメントバレー。
 すなわち、それは人類が遭遇した風景の原点でもあった。
 
 
 アメリカといえば、摩天楼が街を見下ろすニューヨークの光景をまっさきに思い浮かべる人もいるだろう。
 明るいビーチの上を彩る「カリフォルニアの青い空」に、アメリカらしさを感じる人もいるかもしれない。
 
 でも、アメリカの原風景といえば、荒野の中に不思議な “立像” がたたずむ、このモニュメントバレーにとどめを刺すのではあるまいか。
 ジョン・フォード監督の『駅馬車』に始まり、『バック・トゥ・ザ・フューチャーⅢ』、『フォレストガンプ』など、数々の映画の舞台となったモニュメントバレー。
 カーオーディオのCMや、旅行会社のパンフレットなどにもさんざん登場した風景。
 
 見慣れた、… あるいは見飽きたと思う人もたくさんいるだろうけれど、「一番アメリカらしい風景とは何か」と尋ねられたとき、自分はこのモニュメントバレーの光景を筆頭に挙げたい。
 
 ここには「怖くて」「懐かしい」ものがある。
 なんだか、人類の生まれる前の光景に接しているような気分にもなり、人類が地球から消えた後の光景を見ているような気分にもなる。
 いずれにせよ、人間がこの世に存在した時間など、一瞬のまばたきでしかないということを感じさせるような不思議な場所だ。
 
 「永遠の時間が、岩に成りすましている」
 
 この風景からは、まさにそんな気配を感じるのだ。
 
 

 モニュメントバレーにたどり着いたのは、2008年の6月初旬。
 時刻はすでに夕刻に近かった。
 160号線沿いのカイエンタの町から103号線に入り、ユタ州に向かって北上。
 カイエンタを過ぎた頃から、辺りは荒涼とした空気に包まれた。


 
 
 やがて、右手に、天空目指してそそり立つ岩山がひとつ。
 それが「異界」に入るゲートのように感じられた。
 突拍子もない連想だが、『西遊記』 に登場する魔界の宮殿を思い出した。
 すでに、われわれの運転するクルマが、「神話」や「おとぎ話」の世界に入り込んだことを感じた。
 
 
 次々と目に飛び込んでくる不思議な岩山。
 そのどれもが、地平線のかなたから直射してくる夕陽に照らされて、複雑な地肌を浮かび上がらせている。
 
 あっ、と思った。
 岩肌にレリーフ(浮き彫り)が刻み込まれているのだ。
 なんの像だ?
 よくは見えないが、たくさんの人間が並んでいる。
 とっさに思い出したのは、ペルセポリスの廃虚に刻まれたレリーフだった。
 

 アレキサンダー大王に滅ぼされたペルシャ帝国の首都。
 そこには、帝国の最盛期をしのばせるたくさんの兵士や、異国の朝貢者たちが刻み込まれた王宮の廃虚がある。
 
 
 それと同じような像が、モニュメントバレーの奇岩に彫り込まれている。
 せっかくの自然の景観に、わざわざ人工の手を加えた連中がいたのだ。
 「悪いヤツがいたもんだ。こんなことをしたのは、ここに住んでいたナバホ族ではなく、白人だろう」
 レリーフは、ネイティブアメリカンにキリスト教を強要する白人種が描いたものに感じられた。
 
 が、すべては一瞬の幻想だった。
 夕陽の照射角度が変わると、レリーフはあっという間に消え去り、自然のシワを刻み込んだただの岩肌に戻っていた。
 魔法にかけられたような気分だった。
 次に迫ってくる岩には、再びレリーフが浮かんでいたが、もう騙されなかった。
 
 でも、不思議だ。 
 ここでは、あらゆるものが、あきらかに人工的に造られた気配を宿している。
 てっぺんが平らな岩山は、古代ギリシャかバビロニアの神殿に思えるし、とがった奇岩は、神や勇者を表す立像のように見える。
 東洋の道祖神を思わせる立像もあれば、丘の稜線から顔を出したキングコングを想像させる岩もある。
 少し離れたところに行くと、スフィンクスだっている。
 ここには、人類の文明史に登場する神話やおとぎ話がゴロゴロ転がっているのである。
 

 
 どれも、人類にはなじみ深い光景。
 しかし、どれも、人類が何一つ手を加えたことがない光景。
 
 いったい、誰がこのような世界を造形したのか。
 そう思うと、信心深い人は、どうしても「神」という存在を考えずにはいられないかもしれない。
 事実、ネイティブアメリカンの人々は、この大陸に渡ってきた時代から、すでにこの地を「神々の土地」として認知していた。
 また、白人種でも、アメリカ中西部に住む人たちの信仰心が意外と深いというのは、この摩訶不思議な風土のたまものという気がしないでもない。
 
 地平線を焦がした夕陽が、大地のかなたに沈む。
 神話の主人公たちが、宴(うたげ)の終わりを告げる。
 人類の「文明」が生まれる前からこの地に存在し、そして、「文明」の終焉を予感させる風景が眠りにつく。
 

町田厚成

キャンピングカーのガイドブック、キャンプ場ガイドブックなどの編集を通じて、キャンピングカーやキャンプ旅行に関する文章を20年くらい書き続けています。愛車は5mサイズのキャブコン。カミさんが機嫌が良いときは犬と一緒に旅行にお供してくれますが、仕事を兼ねた一人旅が多い昨今です。

http://campingcar2.shumilog.com/

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