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コラム

キャンピングカー旅行は息子を「大人」にする

 日本のキャンピングカーはファミリーで使われることがけっこう多い。シニアユーザーが大半のヨーロッパとはそこが異なる。
 統計によると、日本の場合、夫婦2人で使っているユーザーが6割強、家族中心で使うユーザーは約3割という状況である。
 
 しかし、ファミリーで使うといっても、親の旅行に子供がついてくるのは、いったい何歳ぐらいまでだろう。
 小学校の低学年ぐらいまでか。それとも高学年くらいか。
 中学に入ると、もう部活やら友達同士の付き合いの方が多くなり、親との旅行を嫌がる子供が増えてくるという話をよく聞く。
 特に、子供が思春期になると、けっこう親子のコミュニケーションが難しくなる場合がある。親が話しかけても不愛想になってきたり、話が合わなくなってきたり、わけの分からない友達づきあいが増えたり、外泊が多くなるといった変化が見られることもある。
 キャンピングカーユーザーの中にも、そういう悩みを抱える家庭はけっこうあるのではなかろうか。
 
 わが家にもそういう事態が訪れたことがあった。高校2年になって、急に親に冷淡になっていく息子に対し、カミさんなどは「子供が何を考えているのか全く分からない」と嘆く日が続いた。
 カミさんばかりでなく、私もまた、仕事にかまけて息子とろくに話す機会を持たない生活を続けるなかで、会うたびに、彼がよそよそしくなっていく様子を空気のように感じていた。
 
 このまま、コミュニケーションの絶えた状態で放っておいてもいいものか。しばらく悩んだ後、私は、キャンピングカーを使った取材旅行の「助手」を息子にやらせようと思いついた。
 
 当時は、キャンプ場のガイドブックを編集する仕事をしていたから、自分で取材先を自由に決めることができた。そこで「キャンピングカーで楽しむ北海道の旅」という企画を思いつき、それに息子を同伴させようと考えた。
 「仕事を手伝えば日当を払ってやる」という条件に、夏休みに入って暇を持て余していた彼は、不承不承(だったろうが)親との旅行を承諾した。
 
 
 
 こうして、苫小牧を起点に、登別~石狩~ホロベツ原野~稚内~宗谷岬~富良野~愛別~さらべつ~襟裳~八戸~八幡平という北海道・東北を回る約3週間行程の旅が始まった。
 しかし、久しぶりにキャンピングカー同乗する息子と、いったいどんな会話を交わしたらいいのか、旅を始めた最初の頃は、かなり戸惑った。髪の毛を金色に染めて、耳にピアスをはめ、助手席のダッシュボードに足を投げ出してだらしなく漫画を読みふけっている息子に、内心かなり腹を立てたりもした。
 でも、そこで怒ってもしょうがない。問題はコミュニケーションが取れるかどうかだ。
 
 幸い、キャンピングカーというのは、同乗者同士が否が応でもコミュニケーションを取らざるを得ない構造になっている。一緒に生活するとなると、同伴した“クルー”には、キャンピングカー旅行を支障なくこなすための「業務」が否応なく発生するからだ。
 
 まず私は、キャンピングカーのこまごました扱い方の手ほどきし、3ウェイ冷蔵庫(昔はこれが主流だった)の電気とガスの切り替え、ベッドメイキング、ジェネレーターの使い方、AC電源の接続の仕方など、宿泊する前にやらなければならない仕事を一つ一つ教えた。仕事先で撮影するときは、カメラのレンズ交換や掃除、撮影機材などの運びもやらせた。
 やがて、「助手」として一人前に認めてもらったという充実感が彼に芽生えたのか、少しずつだが、2人のコミュニケーションが生まれるようになった。
 
 
 
 キャンピングカー旅行というのは、泊まる場所を選ぶときの自由度が非常に高い。当時は、まだJRVAの「湯YOUパーク」や「RVパーク」などというシステムは生まれていなかったが、北海道には心地良いキャンプ場なら無尽蔵にあったし、普通なら一般客で混み合う「道の駅」のようなところも、本州と比べればかなり空いている。
 
 地図でスポーツ公園の名前を見つけて、山を登っていくと、夏休みの週末だというのに、だだっ広い駐車場を私たちの車1台だけで独占してしまうということもあった。
 …ということは、満足のいく宿泊を求めるのなら、その日の宿泊企画を真剣に練らなければならないことになる。もちろんキャンプ場の取材であったから、取材先のキャンプ場で泊まることが多かったが、広い北海道を回っていると、必ずしも取材のスケジューリングに合わせてタイミングよくキャンプ場にたどり着けるとは限らない。
 
 だが、幸いなことに北海道には、他の旅行客に迷惑のかからないような仮眠スペースがいっぱいあった。
 どこで、どのような夜を過ごすか。
 毎日夕方が迫ると、まず休む場所の目星をつけ、そこに至る行程の中で温泉を探し、夜の食材を確保する段取りを練る。
 あらかじめ予約を入れる旅館やホテルと違って、その晩をどう“創造”するかという緊張感が常につきまとう。
 それが息子にとっては日常生活とはまったく異なった新鮮な体験だったのだろう。やがて彼は、放っておいても、自分でその日のスケジュールを提案するようになってきた。
 人里離れたダム湖のパーキングで、真っ暗な闇を経験し、電子レンジで温めたチャーハンを分け合って、ささやかな晩餐を楽しむ。
 あるいは、名前も定かでない小さな町の駐車場に停め、地元の人しか訪れない淋しい居酒屋の「のれん」をくぐる。
 
 そんな体験の積み重ねが息子にはとても楽しかったようだ。
 北海道の奥地には至るところに「熊出没注意」という看板がある。
熊が出るかもしれない荒涼とした場所で泊まる夜、頑丈な壁に囲まれたキャンピングカーは、息子にとってどんなに心強かったことか。
 ときどき夜更けになると、彼は窓から顔を出し、「熊は来ないか?」などとつぶやきながら、駐車場の彼方まで懐中電灯を照らす。まるで熊の出没を待っているような表情だった。
 眠くなるまで、車中では、私はひたすら酒を飲み、息子は漫画を読みふける。
 時には、“お互いの王将が敵陣までさまよい込む”ような将棋を指す。
 男同士のコミュニケーションはそれで充分なのだな、と思った。
 
 

  
 襟裳岬の漁師町で泊まったとき、私たちは公営駐車場に車を止め、近くの居酒屋に繰り出した。
 そこで酔って少し盛り上がってしまった私は、未成年の息子を引き連れて、その隣りにあったカラオケスナックに入り、息子にはコーラなどを飲ませながら、一人いい気になって「宗右衛門町ブルース」などを歌っていた。
 
 夜中の1時を回るような時間帯だったと思う。
 隅のボックスでは、息子と同じぐらいの若者たちが飲んで、歌を唄い、騒いでいた。
 ビールのジョッキを威勢良く開け、歌が朗々と店内に響きわたる。
 ところが、一定の時間が来ると、彼らは一斉に立ち上がり、みな顔をきりりと引き締めながら、次々と店を出ていく。
 ママさんの話によると、若い漁師さんたちなのだという。
 スナックで集合し、少し歌を唄って元気をつけ、それから早朝の海に漕ぎ出していくのだそうだ。
 
 その話を聞いたとき、息子の目が輝いていた。
 最初はただ騒いで唄っているだけの自分と同じ年格好の若者たちが、実は、深夜に海に漕ぎ出ていく漁師たちだったとは。
 そこで見た光景は、ただ遊ぶことしか考えていなかった彼に、なにがしかのインパクトを与えたようだった。
 
 
 トラブルにも遭った。
 フェリーで本州に戻り、東北のキャンプ場めぐりを始めようとした矢先、深夜の高 速道路を走行中に、車が動かなくなった。
 最初はエアコンが止まり、次にスピードがどんどん低下し、やがてアクセルを踏めども、その踏力がほとんど駆動輪に伝わらなくなった。クラッチ板が滑り始めたのだ。  
 なんとかSAに逃げ込み、レッカー業者に連絡を取って、高速道路の敷地内から連れ出してもらうことができた。
 
 しかし、修理に関しては絶望的だった。というのは、ちょうど運悪くお盆休みと重なった日だったので、その近辺の自動車修理工場がみな一斉に休業に入った矢先だったのだ。
 仕方なく、道路公団の役員に事情を説明し、キャンピングカーを料金所脇の駐車場に置かせてもらって路線バスで町に出た。そして小さなレンタカーを借りて、市内観光を試みた。
 いろいろアクシデントを経験した後は、2人の呼吸がさらにぴったり合うようになり、「以心伝心」という空気が生まれた。
 
 こうして3週間のキャンピングカー旅行を終え、私たちは帰途についた。
 カミさんは、久しぶりに帰った息子の顔を見て、「すごく大人びた表情になった」とびっくりした。
 
 こういう旅の体験が、彼の将来にどういう影響を与えたのか分からない。
 ただ、この前、成人した彼が久しぶりに家に遊びに寄ったとき、私がモーターホームを借りてアメリカを回った話をした後、彼は、
 「次はオレとモーターホームの旅をするかね? アメリカでも横断するか」
 などと、一言いった。
 若い頃に得た豊かな体験というのは、一生モノなのかな…とも思った。
 
 

町田厚成

キャンピングカーのガイドブック、キャンプ場ガイドブックなどの編集を通じて、キャンピングカーやキャンプ旅行に関する文章を20年くらい書き続けています。愛車は5mサイズのキャブコン。カミさんが機嫌が良いときは犬と一緒に旅行にお供してくれますが、仕事を兼ねた一人旅が多い昨今です。

http://campingcar2.shumilog.com/

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