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コラム

温泉街の美女


「RVパーク」や「湯YOUパーク」といった便利なものができて、キャンピングカー旅行中に温泉を楽しむ機会がずいぶん増えた。
しかし、そういう施設がない場所でも、キャンピングカーは温泉めぐりの格好のツールとなる。
日本中に広がっている「立ち寄り湯」などでは、事前に管理者に断りを入れれば、よほど駐車場が混んでない限り、たいてい一晩ぐらいは快く車中泊を許可してくれる。

さらに、観光地化した有名温泉街の場合は、観光バスが止まるような大きな駐車場が繁華街のど真ん中にあるので、ここに愛車を止め、1泊料金を払う。自分の車はキャブコンながら5mそこそこなので、コインパーキングにも入ってしまう。
駐車料金は高くても2,000円以内だから旅館に泊まるよりは安く、しかも温泉街の風情も十分堪能できるという、旅館業の方々には誠に申し訳ないような旅が味わえる。

昔は、こういう旅をよく楽しんだ。自分の場合は仕事でキャンピングカーを使っていたから、たいてい一人旅。話し相手もいないキャンピングカー旅行のさびしさを癒すには、やっぱり温泉に浸かってゆっくりくつろぐのが一番だ。

で、温泉街の有料駐車場に車を止め、一応タオルと石鹸、洗面器などを準備した状態で町中に繰り出す。風呂上がりのビールがうまそうに思える焼鳥屋などを事前にチェックして、あとは一時利用を受け入れる旅館を探すか、公衆浴場を探すか。
そして、湯上がりは、事前にチェックを入れておいた居酒屋か焼鳥屋へ。キャンピングカーには門限がないから、時間の過ごし方は自由だ。まれに一人で盛り上がってしまい、ついもう一軒というケースも出てくる。


夏も終わりというその日、2軒目に覗いたスナックは浴衣掛けの観光客のオヤジさんたちで満席だった。仕方なく、ポツンと空いていたカウンター席に座る。
「おしぼりどうぞ」
と近づいてきたのは安西マリア似の(俺も古いな!)今風でいえば石原さとみ似の女の子。しゃべり方がハスキーで色っぽい。

「バランタイン12年をロックで。チェイサーを付けて」
我ながら、ちょっと気取った注文になりすぎた … と思いつつ、手に抱えていた洗面器をさりげなく背中の後ろに隠す。

浴衣掛けのオヤジさんたちの席からは演歌の大合唱。それが途切れたタイミングを見計らって、「歌などいかがですか?」と、例の石原さとみが近づいてくる。

こういう時に歌う曲が難しい。若作りでいくか年相応でいくか、日本語でいくか英語でいくか。
悩んだ末に選んだ曲がベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」。
そうとう古い曲だが、さとみは知っているという。
「私、黒人系の音好きなんです」
話の接点ができた! しばらくは好きな音楽とアーチストの話で盛り上がる。親友にプロの歌手がいるらしくやたら音楽について詳しい。

話がふと途切れて、「どちらのホテルにお泊まりなんですか?」とさとみの目が人なつっこい感じになっている。

「駐車場に置いた車で寝るんだ」
「??? …… 」
「キャンピングカーなんだけど … 」
「あ、素敵! 中にお風呂とかもあるんでしょ?」
「いや風呂はないけど、シャワーはある」
「広いベッドがあって、でっかい冷蔵庫があって、ちゃんとシステムキッチンが付いているのよね」

輸入モーターホームをイメージしているようだ。
「銀色で丸くて格好いいのもありますよね」
エアストリームのことか …
「君、詳しいね」
「私、そういうクルマでアメリカを旅するのが夢なんです」
「ほぉ … 」
「でっかいキャンピングカーを自分で運転して、アリゾナ砂漠まで行って、ガラガラヘビを遠くから見てみたい」
「変わった趣味だね」
「けっこうあの手の車好き。店が終わってからキャンピングカーを見に行ってもいいですか?」

大胆というか、無邪気というか。
「冷蔵庫もあるんでしょ? 氷ある?」
「あることはある … 」
「私あと1時間で上がれるんです」。

まるでテレビドラマの世界。
「おお、いいともおいで、おいで! 酒もあれば氷もある。キャンピングカーの中で飲み直そう」。

…… もし、10年若かったらそう言っていたかもしれない。しかしアバンチュールの予感に胸をときめかせるにはブランクがありすぎて、戸惑いが出た。
「今度またね」
曖昧な言葉でお茶を濁して、店を出た。


… にもかかわらず、自分のクルマに戻ってからせっせと荷物を片付けて、ダイネットをつくり、電子レンジで冷凍枝豆をチンして氷を用意した。

待つこと30分。焼酎に氷を入れて自分で飲み始める。

「考えてみたら、どこの駐車場と言わなかったから場所が分からないよな」
とか、
「もっと強引に誘えば良かったかな … 」
などと独りでブツブツ言いながらまた一杯、さらに一杯。

「やっぱ曖昧な表現は誤解を生むな」
「いざとなると尻込みするのが昔からの俺の駄目な性格なんだよな … 」
「まぁなんだな、別に車内でいっしょに飲まなくても、こういうドキドキするような体験を持つことが大事ってことよ。これが若返りの秘訣だよな … 」

気づくと、いつものようにバンクベッドに登って、一人で高いびき。


 

町田厚成

キャンピングカーのガイドブック、キャンプ場ガイドブックなどの編集を通じて、キャンピングカーやキャンプ旅行に関する文章を20年くらい書き続けています。愛車は5mサイズのキャブコン。カミさんが機嫌が良いときは犬と一緒に旅行にお供してくれますが、仕事を兼ねた一人旅が多い昨今です。

http://campingcar2.shumilog.com/

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