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コラム

寝る場所を選ぶ権利は、夫にあるのか妻にあるのか

 「夫婦の2人旅」。
 それが現在日本でもっとも普及しているキャンピングカー旅行のスタイルだが、あれって、寝る場所を優先的に選ぶ権利は、夫婦のうちのどちらが握っているものなのだろう。

 たとえば2段ベッドの上と下。
 バンクベッドの手前と奥側。
 もちろん、フロアベッドしか展開しない車種の場合は、2人横に並んで寝ることになるのだが、それだって窓際は寒いとか、通路側の方がトイレに行くのに便利とか、いろいろと位置的な優劣が出てくる。

 たいていの場合、旦那さんが、奥様に場所を選ばせているはずだ。
 なんたって夫婦のキャンピングカー2人旅は、奥様が気持ちよく付き合ってくれないと成立しない。ここは旦那さんの優しさの発揮どころとなる。

 もちろん、うちの場合も「奥様優先」。
 しかし、それは、私が譲歩するなどという生易しいものではなく、もう絶対的権力によって服従させられるという形になる。

 わが家の序列は、カミさん → 犬 → 旦那という順に階層化されているので、最下層に位置する私などは、犬が寝場所を決めた後に、やっと自分の寝床を確保することになる。

 当然、クルマの中でしもじもを見おろせる特権的なバンクベッドは、女王様だけの寝床となる。
 そこはキャンピングカーの中でももっとも神聖不可侵な場所であり、仮に私が一人旅をしているときですら使用してはならない場所なのだ。



 理由は「臭くなる」からだ。

 私は、特に毎日シャンプーをしているわけではない。自分で「汚れたかな…」と感じるときに洗髪するという、ごく自然なサイクルでシャンプーしているのだが、カミさんが密かに観察するところによると、1週間から2週間ぐらいは髪を洗わないまま平然としているのだそうだ。

 そんな馬鹿な…と自分では思うのだが、いつシャンプーしたかを自分でも思い出せないくらい自然体の生活を送っているので、その指摘に反論することができない。
 さらに彼女は、「水虫にかかっている者と同じベッドスペースを共有することはできない」ともいう。

 私の場合は、水虫を罹患する年が隔年と決まっており、足裏が清潔な状態を1年おきにしっかり更新しているのだが、そういう細かい現状認識を持つことを彼女は不得手としているようなのである。

 「頭を洗っていない」ことと「水虫」という、日常生活にはほとんど支障のない小さなことを二つだけ取りあげ、「そういう不潔な人間に神聖なバンクは渡せない」と女王様はのたまうわけである。

  なにしろ女王様は、臣下(犬を含む)の私たちに対して、思いつきの言葉を平然と発言するのが得意だ。

 たとえばキャンピングカーを選ぶときも、「トラック顔は絶対いや!」と、キャンピングカーライターの妻にあるまじき暴言をあっけらかんと言ってのける。
 キャブオーバー型のキャブコンを指しているわけだが、「あれはスペース効率に無駄がなく、居住性を考えれば、ボンネットなどが出ているキャンパーよりも室内を有効に使える」といくら説明しても、
 「そういう、せせこましい実務性などはどうでもいいのだ。キャンピングカーは見た目が大事だ」
 とおごそかに反論してくる。

 それでいて、「就寝時には、ダイネットをそのままにした状態で寝られる車が良い車だ」などと、したり顔で解説してくれることもある。
 自分でダイネットテーブルなど片付けたこともなく、眠くなればさっさとバンクに登ってしまう女王様が、どこでそのような庶民感覚を身につけたかは今もって深い謎である。

 なにしろ、天下泰平の世を謳歌するがごとくのおおらかさが、女王様の持ち味である。
 最初に買ったボンネットトラックベースのキャブコンにはじめて乗ったときも、助手席に座った女王様は、開口一番「この車故障しているかも!」と鋭く指摘した。
 いわく、日頃乗っている乗用車に比べ車体の揺れも大きいし、エンジン音も異常に高い。点検が必要かもしれないとのご託宣であった。

 「そうかなぁ…」という思いでしばらく話を聞いていたが、やがて彼女がディーゼル車にはじめて乗ったということが判明した。
 確かにガソリン車と比較すれば、当時のディーゼルトラックはうるさかった。
 しかし、それを「故障」とまで感じるほどの鋭敏な感受性に対し、私は唖然とするよりも感動を覚えた。

 ある販売店で展示車を見ていたとき、「素敵なディスプレイのクルマがある!」と女王様が跳んできたので、一緒に見ることになった。
 展示車のある方向に歩きながら、彼女がうきうきと語り出す。
 「カーテンの色も洒落れているし、ベッドに敷いてあった布団の柄もよい。床にあったスリッパの趣味も品がよく、さりげなく飾ってある子供服も、内装色とのコンビネーションを意識している」
 とか。
 そこまで聞いて、「……???」となった。
 
 案の定、それは展示車ではなく、その展示場に見学に来ていたユーザーさんの車だった。どうやら勝手に上がり込んで、シャワー室はおろか冷蔵庫の中までしっかり見学したらしい。

 「天衣無縫」、「唯我独尊」という言葉は彼女のためにあるようだ。そういう彼女が、人からは「万事ものごとに控え目で、しとやかで、気配り上手」と評価されているのが解せない。世界の7不思議というのが今でもあるのなら、個人的には、そのことを入れて8不思議にしたいくらいだ。

 少なくともキャンピングカーに乗っている限りは、彼女は「気配り上手」の仮面を外し、忠実な番犬とそれ以上に “忠実な下僕” にかしずかれて悠然と振るまっている女王様なのである。

 そのため、私は一人旅のときはバンクで寝ているなどと一言も話せない。「水虫をうつす気か?」と、地獄の閻魔(えんま)大王が仁王立ちになったごとくに、女王様が怒り狂うからだ。

 だから、一人旅が終わると、私はバンクベッドのシュラフを綺麗にたたみ、下に敷いたシーツのしわを伸ばし、ファブリーズをたっぷり振りかけて、「バンクベッドなどはまったく使いませんでしたよ」という顔を作ってから、家に入るのである。

 

町田厚成

キャンピングカーのガイドブック、キャンプ場ガイドブックなどの編集を通じて、キャンピングカーやキャンプ旅行に関する文章を20年くらい書き続けています。愛車は5mサイズのキャブコン。カミさんが機嫌が良いときは犬と一緒に旅行にお供してくれますが、仕事を兼ねた一人旅が多い昨今です。

http://campingcar2.shumilog.com/

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